←Hurry_1
6
年が明けた。
今年初めてやったことは、熟睡した遊くんを抱っこして(重かった…)
お隣のおうちに帰すことだった。
新年の挨拶を初めて交わしたのは両親で、
その次の人が遊くんのお母さんとなった。
その後、午前一時半まで友人たちとメールのやりとりを交わし、
二時頃には力尽きて寝た。
起きるとお母さんがお餅を焼いていて、家族でお雑煮を食べた。
そして遊くんと年賀状の見せ合いっこをしたり
テレビ雑誌を見て正月番組は何が面白そうかを吟味していたら、
いつの間にか、三時近くになっていた。
遊くんとまったりモードで、部屋で雑誌を広げていると、
突然携帯がなった。
誰かと思って拾い上げてみると、ハリーからである。
遊くんに「ちょっと、ごめん」と断り、電話に出た。
『オッス、新年おめでとう』
向こうから響くハリーの声。
私はすかさず返事をする。
「オッス。おめでとう! あ、年賀状ありがとー」
『俺のセンス、かなりイカしてただろ!』
「うん。めっちゃ良かったよ」
『なあ、今から初詣行かねぇ? 志波も一緒にいんだけど』
「え」
私の返答を待たずに、ハリーの声が遠くなった。
向こうの方で小さく「替われよ」という声が聞こえる。
どうも、志波くんに携帯を押しつけているらしい。
そして、いきなり低い声が耳に入ってきた。
『あけおめ。ことよろ』
とつぜんの破壊力に、私は噴きだしてしまった。
『……』
電話の向こうで、志波くんが無表情で困惑している様子が目に浮かぶ。
「い、いや… ごめん… ちょっとツボに来て…
あけおめ! あけおめっ!!」
私が必死にごまかすと、志波くんも気分を切り替えたようだ。
『…ってことだから、良かったら来るか? 初詣』
困った。
実は今日、これから遊くんと初詣に行く約束をしてしまっているのだ。
去年の混雑を知り、今年は夕方に行こうという作戦だったのである。
そんな私の様子を見て、遊くんは気づいたようだ。
「いいよ、おねえちゃん。行ってきなよ。おれは明日でいいから」
私は携帯のスピーカーの部分を手でふさぎ、
遊くんに言う。
「いいの?」
「せっかく誘ってくれたんだから、行かなきゃソンだよ」
この二人とは、そういう仲じゃないんだけどな…と思いつつも、
遊くんに心から礼を言い、ニガコクに初詣参加の旨を伝えた。
『じゃあ、今からオマエの家に行くから、支度して待ってろよ!』
電話口に戻ったハリーがそう言うと、プッと音がして電話が切れた。
遊くんが家に戻ると、ちゃっちゃと支度をする。
あまり気張っていくのもアレなので、
ジーンズを履きセータを着て、お気に入りの白いコートを羽織った。
やがて、ピンポーンというチャイムの音が鳴る。
ニガコク参上。
玄関先でニガコクと再度新年のあいさつを交わし、
私は新しい一年を迎えた街へとその身をくり出した。
冬の寒さに、ぽかぽかと緩んだ日差しが頬をさす。
こういうアンバランスは嫌いじゃない。
神社への道を歩きながら、私達は色々な世間話をした。
と言っても、志波くんは口数が多い方ではないので、
もっぱら私とハリーがぺらぺらしゃべっている感じだ。
何でも、ハリーはバンドメンバーと一緒に
はばたき城に初日の出を見に行ったらしい。
そういえばはばたき城では元日のみ、未明から城内に入場して
天守閣から初日の出を拝める「お城 DE 初日の出」という
微妙な名前のイベントをやっていた。
内心行くかも…とは思っていたが、やっぱり行ったのか。
「…で、本っ当にきれいなオレンジでよー!
天下取ったって、こういう気分なんだって味わったわ」
ハリーがどれほど城を愛しているのかは熟知していたので、
興奮気味に初日の出の感動を伝える彼の姿を見ても、
微笑ましい気持ちに包まれるだけだった。
そして家に戻ったのが早朝で、昼過ぎまで寝てしまったそうだ。
意外に規則正しい生活をしているハリーにとって、昼まで爆睡なんて
あまり楽しいことではなかろうに。そうまでしてでも城にいきたかったということか。
ちなみに志波くんは、家でソバを食べた後でうっかりコタツで寝てしまい、
気がついたら朝の七時だったらしい。
そして昼前に真咲先輩が訪ねてきて、ご両親と歓談をして
帰っていったそうだ。
なんだかんだ言いつつも、我々の年明けはやはり平凡で平和だった。
友人知人皆きっと、幸福な正月を過ごしているのであろう。
神社の鳥居をくぐると、まだまだひかない人の群れにぶち当たった。
迷子防止のために私は志波くんのジャケットの腰のあたりをつかみ、
イカ焼きの香りに素直に反応しながら進んでいく。
(おそらく、10回以上は「イカ焼き」と発音しただろう)
そしてお賽銭箱の前にきて、
三人それぞれ手をパンパン叩き、神に祈った。
はね学野球部がはば学に一回でも勝てますように…
いや、それじゃスケールが小さい。
ここはいっそ、甲士園出場で。
や、もう少し貪欲にいこう。
野球部が甲士園で優勝できますように。
優勝できますように
そして―
太郎くんの受験が、無事に終わりますように。
希望大学に合格できますように。
11月のあの時から、私と彼はろくに会話もしなくなった。
校内にいても、不思議なほどに出会わないのだ。
クリスマスパーティーの時は、品の良いスーツ姿の太郎くんを見かけ、
一分ほど話したが、私は自分の気持ちを隠すのがもうきつくなっていたので、
会話なんてしている状態じゃなかった。
なんか…苦しくって倒れそうだったのだ。
でも太郎くんは平然と、公共向けの笑顔で私に対応したのだ。
あの日のキスのことなど忘れたように。
ありえなかった。
私とのキスが、なかったことにされている。
消えてしまいたい気持にかられ、
会話した直後に、私はトイレにこもって泣いた。
―今でもその時のことを思うと、
どうしても胸がちくちくして、泣きそうになる。
でも、ぐっと太郎くんの合格を祈っておく。
耐える。耐えなきゃ。
その後はおみくじを引き、各結果に関して好き勝手に評論したあと、
木におみくじをくくり付けて神社を出た。
「今年は良い年だといいなー」
「だね」
元日特有の牧歌的な気分で帰り道をゆく。
内心、早く3月になれば良いと思えて仕方がなかった。
今のままでは怖すぎて、太郎くんにバレンタインなんか渡せない。
どうせ作っても、結局自分で食べることになるに決まっている。
早く卒業式が、来ればいい。
そうすれば、ひとまず決着がつくはずだ。
真綿でくくられて、もがくくらいなら
いっそひと思いに―
…等と考えているうちに、志波くんと別れる交差点に出た。
「じゃ、オレはここで」
そう言う志波くんに対し、私は叫ぶ。
「志波くん! 今年も野球部頑張ろうね!!!」
「ニガコクもさぼるなよっ!」
すかさずハリーも追従した。
志波くんはいつもの調子でふっと笑うと
黙って頷き、我々に背を向けて帰って行った。
ハリーと二人っきりになったので、
せっかくだから「お城 DE 初日の出」の詳細な感想でも聞いてやろうかと思っていたら、
いきなり向こうがこう言ってきた。それも、ひどくまじめな口調で。
「なあ、この後…時間あるか?」
「えっ?」
「ちょっと、オマエに言いてぇことがある」
ハリーの様子は、曲作りをしている時と同じくらい真剣だった。
これは、ただ事ではない。
私は神妙な様子で頷いた。
それを見て、彼は続ける。
「…真嶋について」
―私の顔が凍った。
既に暗くなった空を見ながら、私達は道路際の鉄柵に体を預けていた。
目の前には海、足元はアスファルト。
そう、ここは海と陸地の境目だ。
足元を見ると、90度に切り立った岸の下で
暗い色をした海が、ぐわんぐわんと渦を巻いていた。
ああ、冬なんだなぁ
この道路は人通りもほとんどなく、話すには良い場所ではある。
私はある程度の準備を持って臨んでいはいるが
ハリーが何を言うのかは未知数だった。
「…」
彼が黙っているので、私から切り出す。
「ねえハリー。話って、何?」
「西本から聞いたけど、オマエ、クリスマスパーティーで泣いたって本当か?」
「…え」
よくわからない切り出しに、私は戸惑った。
…確かにあの時、トイレから出た後で、はるひとひーちゃんが異様に心配してくれた。
ばれてた?
私の心を寒風が通るが、そこは笑ってごまかす。
私はもともと、見たくないものを見ない名人だ。
「え… どうだったかなぁ… スパイシーチキンが辛すぎて、涙ぐんだだけだと思うけど」
こんな私に対して、ハリーはすっぱりと言い放つ。
「やめろよ」
私の作り笑いがこわばった。
ハリーの口調は、かなりイライラしていた。
彼はもともと、本音を隠すタイプの人じゃない。
「そういう小手先の技は、もういいっつーの。
…オマエの様子が明らかにおかしかったから、俺が後で西本に聞いたんだよ。
そうしたら、真嶋と話した後に様子がおかしくなったって。トイレに閉じこもってたって。
どう考えても、尋常じゃねぇだろ」
なんでこいつ、気づいてるんだ。
本当にアーティストっていうのは、嫌な所に目端が利く人間だ。
私は知った。
曰く、ハリーは鋭いと。
いや、前々から感じてはいたけれど。
彼は他人の心情を察するのに、意外なほどの洞察力を持つ。
こういうのが「アーティスト」ってやつか。
…多分本当は違うと思うが、とりあえず本筋から外れるので置いておく。
私は観念した。ハリーには隠せない。
こわばった笑顔を溶き、苦笑する。
「あー… やっぱ、ハリーにはかなわないや」
「そりゃ俺様だからな! …じゃなくって!」
…何故、そこでそっちに行く?
「よっこらしょ」
行儀は少し悪いが、私は道路にしゃがみ込んだ。
ざんざんの黒い海が、より間近にせまる。
本当は座り込んでも良いんだが、ハリーは多分嫌がるだろう。
ハリーも私に付き合うように、道路にしゃがみ込んだ。
私が言う。
「私、太郎くんが好きなんだ。ずっと」
「んなこと知ってるっつーの」
ハリーはあっさり返す。そりゃ知ってるんだろう。
「で、時々デートとかしてたんだけど」
私の告白に、ハリーは露骨に眉をしかめた。
感情を隠しているつもりなんだろうが、残念ながら、ばれている。
「秋にさ、ちょっとトラブルがあって…で、気まずくなちゃってさぁ」
「どんなトラブルだよ?」
―予想された突っ込みである。
だが、私は口ごもる。
「…言わないとだめ?」
「無理強いはしねぇけど、知らないんじゃ何とも言えねぇだろ」
「事故でキスした」
「ハァッ!?」
わざと、異常なほどにあっさりと言った私のセリフに対し、
ハリーは大きな反応を示した。
私は同じ言葉を繰り返す。
「事故でキスした」
「マジかよっ?」
「マジだよ。
一緒に歩いてた時、自転車とぶつかりそうになった私を
かばってくれたらそうなった」
「ねーよ!」
ハリーは叫んだあと、小さく続ける。
「で、真嶋はどういう反応だったんだ?」
「何も」
「ハァァーッ!?」
さっきのハァッ!?よりも二割増しになっていた。
「…受験で忙しいから、しばらく置いておいてくれって」
「何だ、ソレ。議論にもなんねーよ…」
ハリーの繰り出してくる正論に、私は何も言えなくなった。
だから、誰にも言いたくなかったんだ。
「やめろそんな奴。論外だろーが。断固拒否」
ハリーは強くそう言い放った後、私の顔を見て絶句した。
理由は簡単である。
私が涙目になっていたからだ。
いきなり正論で返されたら、もう何も言えないじゃないか。
「…ホレ」
彼はポケットからハンカチを出し、私にくれた。
そして幾分か穏やかな口調になり、こう続ける。
「でも、本当は…オマエだってわかってんだろ?
その…まあぶっちゃけて言っちまうけど…扱いがひどいって…
それなのによ…何でそんな、真嶋にこだわんだよ…」
「……」
私は無言でハンカチを握りしめた。
人様のハンカチを無許可でシワシワにした。
とんだ無礼者である。
「ハンカチ、ごめん」
「いいよ、んなモン。つーかやるよ。
で、言えねぇのか? こだわる理由は」
私は鈍った頭で、少し算段を働かせる。
相手は男の子だ。言っていいんだろうか。いや、でも親友だ。
「…だって」
私の口からは、自然と言葉がこぼれていた。
「ファーストキスだったんだもん。相手を信じたいんだよ…」
その瞬間、ハリーの表情が急変する。そして即座にすぱっと切ったのだ。
「ファーストじゃねえだろっ! オマエはもう、ファーストキス済だ!」
「はぁっ!?」
今度は私のハァ?のターンだ。
「思い出せよ」
「何を」
「5月1日!」
「…大安?」
「そうそう…じゃなくって!!!」
あーもうコイツもありえねーと言いながら、ハリーは鉄柵にもたれかかった。
だが、悪いがこれは放っておく訳にはいかない。
「私、誰とキスしたの?」
「言えねえ」
「言ってよ!」
「…口止めされてる」
「誰に?」
「言えるかっ!!」
ハリーはそう言った後、私の方をきっと見てこう叫ぶ。
「とにかく、真嶋とのキスはファーストじゃねえんだよ!
いいだろこれで! 真嶋にこだわる理由はねえ!
もういいじゃねぇか…オマエが辛れぇだろ!?」
「でも…太郎くんは本当はいい人なんだもん!」
―反射的に私は叫んでいた。
「…どこがだよ?」
ハリーの率直な問いに、私のトーンは急低下する。
太郎くん性善説を信じる根拠が、余りに陳腐で些細だったから。
「自転車にぶつかりそうな私を、助けてくれたもん…いい人だよ。
さっきとは矛盾してるけど、ファーストキスとかは、すごくぶっちゃけるともう良いんだよ。
それを置いても、私は太郎くんが好きなんだよ
馬鹿なら馬鹿と、笑えばいいよ」
ハリーが、心底憐れむような視線を私に向けた。
「…オマエの『いい人』のレベルって、その程度なのか?」
そうですよねぇ
本気で、こんな自分が情けなかった。
こんなワラ程度の根拠にすがって、太郎くんを信じる自分自身の小ささに、
心が痛くて仕方がない。
もしかしたら私は、私を好きって言ってくれる人なら誰でもいいのかもしれない。
どうして、自分をこんなに低くしか見れないんだろう
でも、あの時の太郎くんの「危ない!」が、
「ぬくい手」が。
脳裏にこびりついて仕方がなかった。
信じたい。限りなく自己完結だけど、太郎くんを信じたい。
「……」
そんな私の様子を見て、ハリーは小さく言う。
「…まあ、自己評価を低く見ちまうことについては、気持はわからないでもねえ。
まあ俺はハリー様だから関係ねぇけど」
嘘つくなよ、同じムジナじゃねぇか
と内心思ったが、それは言わない。
潮風が、顔を凪ぐ。
ハリーは首から下げた指輪をいじりながら、私に聞いた。
「で、オマエは今後、どうすんだ?」
「太郎くんの卒業式に告る」
「ふられたら?」
「あきらめる」
これが本音だった。
おそらく私は、9割の確率でふられるのであろう。
でも、卒業式できちんと気持ちをぶつけて、
太郎くんの誠実な返事を聞ければ、それで満足だった。
少なくとも、私とのことで、彼が少しでも悩んだ事実が知れたなら―
卒業式は、戦いだ。
「…勝負を投げる人間じゃないってくらいには、私は太郎くんを信じたい」
そんな私の姿を見て、ハリーはもう何も言わなかった。
私達はしばらく沈みゆく太陽を眺めると、その場から立ち上がる。
「…帰るか」
「うん」
ひとまずさよなら。ぐるぐるの黒い海。
そして二人で、黙って家路に急いだ。
家ではもう、お母さんが夕食を作ってくれているのだろう。
「あ、そういえば」
電柱の明りの灯る暗い道で、ハリーは思い出したかのようにつぶやく。
「はば学野球部の奴らが、オマエにありがとって言ってたぜ?」
「えっ?」
あまりにも唐突な話題振りに、私は困惑する。
「いや、何かファミレスで偶然知り合いになっちまって。
で連中がオマエに「志波を野球の世界に戻してくれてありがとう」ってよ」
彼の言葉に、私は驚いた。
ハリーとはば学野球部のつながりはもちろんだが、
私が志波くんを野球の世界に戻したことになっているということに―
「違うよ」
私は首を振る。
「志波くんは、自分の意志で戻ってきたんであって、私は何もしてな…」
「でも、オマエが志波の背中を押したのかもしれねえだろ?」
ハリーは笑う。こういうときの彼は、とてもいい顔をする。
「…はば学っていうと、吉冨くんとか森くん?」
「おっ、よくわかったな」
「わかるよ」
はば学の野球部レギュラーなんて、私にとっては雲の上の存在だ。
そんな天才たちが、私のことを知っていた。
いや、元ネタは志波くんだ。
やっぱり志波くんはすごいんだ。
「つうか…何か聞いたんだけど、志波って高校受験の時、はば学のスポーツ推薦枠断ったんだってな」
「えっ!? そうなの?」
初耳だった。
私の言葉に、ハリーは続ける。
「オウ。何かファミレスにいた一人と、年末に商店街で再開してよ…
一緒に飯食ったら、そういう俺らの知らねえエピソードがいっぱい出てきた。
志波の奴、はば学からのスカウトを蹴ったらしい」
「…やっぱり、私達とは別格なんだね。志波くんは」
言ったあとで、無意識にハリーを「私」側の人間(凡なる存在)に入れてしまったことに気づいて
申し訳なくなったが、意外にも、ハリーはそれには反論してこなかった。
そしてさらに意外なことに、はば学野球部の詳細を聞きたがったのだ。
「つうか、はば学ってやっぱスゲーのか? 名前はやたら聞くけど」
「…ちょっと長くて複雑だけど、聞く?」
「オウ。頼むわ」
彼の言葉を受けて、私はざっと話す。
「えーとね、はば学野球部は、昔っから強豪ではあったけど、せいぜい県で一番程度だったの。
正直言うと、甲士園で優勝できるレベルじゃなくて…
で、色々な中学からエリート選手をかき集めたりしてたんだけど、
せいぜい甲士園の常連になれるくらいのレベルで」
「…それでも十分スゲーだろ」
「まあそうなんだけど。
で、えーと…私が中2の時に、一回初めての全国優勝をして、
次の年に連覇したの。
いきなりの連覇だよ? 私はリアルタイムでは見てなかったけど、
本当にすごい騒ぎだったみたい。
で、連覇を達成したバッテリーが同じ人達で、
あ…えーと、2年3年で連続で甲士園に出てたんだけど、
その人達が卒業しちゃって、鯉川さんっていう人が部長兼エースになったんだ。
でも、甲士園直前に鯉川さんが交通事故にあっちゃって…
まあ後遺症はなかったんだけど、甲士園に出れなくなっちゃったのね。
そこで代役になったのが、二年生だった鈴木さん。
ここまでが、去年ね」
「…長げぇ。しかもわかりづれぇ…」
ハリーのセリフに私は、事前にそう言ったじゃん、と言う。
「で…鈴木さんが負けちゃって。はば学の連覇は2で途切れた。
でも、今年鈴木さんはリベンジして優勝した。
その後を継いだのが、投手的な意味では吉冨くんなんだよ。
つまり、ここ4年間で、はば学は3回優勝してるの。っていうか、優勝が当然、みたいな…」
ハリーは物事を噛み砕くような口調で、小さくつぶやいた。
「……すっげえプレッシャーじゃん」
「だろうね」
「…志波は、そんなとこからオファーを受けてたのかよ…」
ハリーは天を、仰ぎ見た。
「…あー… 平然とした顔で、とんでもねえことしてやがる…」
私はハリーの抱える苦悩の理由を何となく理解できたが、
そこに口をはさむ立場ではなかった。
「…つーか、話変わるけど」
「はい?」
いきなりの方向転換に、私は首を傾げる。
「オマエ、志波のこと、どう思う」
唐突な質問に、私は面食らった。
「…友達」
それ以上でも、それ以下でもない。
「まぁ、これは俺の個人的な意見だけど…
志波にはオマエが必要だ。野球的な意味でも、それ以外でも」
「………」
天から降ってきたような言葉に、私は絶句する。
「つうワケで」
ハリーはカバンをごそごそやって、ビラを二枚私に手渡した。
「来週やる新春ライブ。ライブ自体は無料だけど、そのビラをもって入れば
ドリンクが一杯無料になる。
最前列は確保してやるから、志波と来い。
いいか、志波と来んだぞ!!」
「あ、ありがと…」
とっくの昔にビラはもらってるんだけどな…と思いつつも、私は素直に礼を言った。
「志波くんと見に行くよ。
…っていうか、もう見に行くって話、してるから。
ライブ楽しみにしてるよ」
「そっか。…サンキュ」
ハリーは穏やかに笑うと、じゃあなと言って私に背を向けた。
私もじゃあ帰るかと思いつつ、家への道を歩いた時、
後ろから大音量の声が響いた。
「いいかーーーーーッ!!!
何があっても、ニガコクはオマエの味方になってやっからな!
それを踏まえた上で、卒業式に真嶋と勝負して来いっ!」
その声に負けじと、私も大声で返した。
「ありがとーーーーッ!!!!」
傍から見たら、本当に馬鹿な青春コンビである。
それでも私たちは、目標は違えど、自分の決めた道を歩くのに必死だった。
そして、後悔だけはしたくなかったのだ。
2月29日に、私の戦いは最終決戦を迎えることになるのであろう。
少なくとも、これで決着がつくはずだった。
→7
いよいよハリー暗躍(?)開始。
ハリーは、一番全体像を把握している立場であって欲しいです。
つうか太郎連載なのに太郎出てない(笑)
次回はいよいよ、太郎卒業式の話です。
悪辣太郎が解禁できるので楽しみ!です!
ところで、ハリーのしゃべり方は「針谷節(?)」的な
感じがあって、けっこう難しかったです。
つうかハリー… 描写むずいな…
2008.11.23
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